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東京地方裁判所 昭和24年(行)78号 判決 1959年10月28日

原告 高原晋一 外三名

被告 日本電信電話公社総裁・郵政大臣

主文

原告らの請求はいづれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

(原告らの申立、並びに、事実上の主張)

第一、請求の趣旨

被告日本電信電話公社総裁(本件処分当時は電気通信大臣)が昭和二十四年八月十二日原告高原晋一に対してなした免職処分並びに、被告郵政大臣が前同日原告宮田博、同相馬春雄、及び同村山永喜に対してなした各免職処分はいづれもこれを取消す。訴訟費用は被告らの負担とする。

第二、請求の原因

一、(1) 原告高原はもと電気通信省の職員で、もと通信省所管行政庁に勤務する従業員、及び、これに準ずる者を以て組織されている全逓信労働組合(以下全逓労組と略称する。)の組合員であり、かつ、昭和二十一年二月より同組合中央執行委員、同年九月より同組合電気試験所支部委員長、同年十月より同組合教育部長、同二十二年三月より同組合本部副委員長であつたもの、

(2) 原告宮田、同相馬、及び同村山はいづれも郵政省の職員で、前記組合の組合員であり、かつ、原告宮田は昭和二十四年七月より同組合中央執行委員、原告相馬は同二十一年六月より同組合宮城簡保支部書記長、同二十三年六月より同組合中央執行委員、原告村山は同二十二年三月より同組合東京簡保支部副支部長、同年六月より同組合中央執行委員、同二十四年六月より同組合副委員長であつたもの、

であるが、行政機関職員定員法(昭和二十四年法律第百二十六号、以下定員法と略称する。)に基く人員整理により、夫々、請求の趣旨記載の日に、各被告より免職処分を受けた。

二、しかしながら、右各免職処分は、全逓労組の弱体化を企図した被告らが定員法による人員整理に便乗し、組合の拡大強化、組合員の地位向上のために活動して来た組合幹部である原告らを組合より除外する意図の下になされたもので、左記のような違法があるから取消されるべきである。

三、(原告らが整理基準に該当するものでないことについて、)

被告らは本件各免職処分当時、定員法に基く整理の基準として、

(イ)公務員としての資質に欠ける者、(ロ)逓信事業の再建に必要とされる職員の技能知識、肉体的諸条件に欠けている者、(ハ)特に通信事業の業務に対する協力の程度の薄い者、(ニ)勤続年数が短く、勤務成績の良好でないと定め、又当時、人事院においては、整理の消極的基準として、(イ)業務能率の高い者、(ロ)優れた能力を有している者、(ハ)勤務年数の比較的長い者、(ニ)同種の職務に長い経験を有する者、(ホ)公務執行上必要な者、(ヘ)勤務成績良好な者と定めた。

しかるに、原告らはいずれも右被告らの整理基準に該当しないばかりでなく、かえつて、人事院の右消極的基準に該当しているものであるのにかかわらず、原告らを被告らの右整理基準に該当するものとして整理の対象としているものであり、本件各処分は違法である。

四、(平等取扱の原則、不利益取扱禁止の原則違反)

(1)  原告らはいづれも全逓労組の中央執行委員にして最も熱心に組合活動を行つて来たものである。同じ中央執行委員であつても、御用幹部として組合員の利益を裏切つているところのいわゆる民同派と称される者達は本件整理より除外されている反面、組合活動に熱心であつた原告らを含めた組合幹部多数がいづれも整理の対象とされた。又、被告らは前記民同派に属する者の一部をも整理により一旦は免職したけれども、その後同派に属していた者をひそかに復職させている。その他、整理による免職後被告らに対して組合活動を行わないことを誓つた者を復職させている事実もある。

(2)  結局、被告らは自ら定めた整理基準に該当しない原告らを組合活動に熱心であつたという理由によつて本件整理の対象としたものであつて、これは組合活動に熱心な者を排除するという被告らの方針の下に為されたものである。更に、定員法による整理完了の期限は昭和二十四年九月三十日なのであるから、右期限が近づいても、なお希望退職者が少く、定員を超過している場合においては強制的な免職処分が行われるのは止むを得ないとしても、右期限より五十日も前において敢て本件のような強制処分を為した点、或は、後記の如く定員法に定められた定員を超過して整理を行つている(従つて、原告らを特に定員法によつて整理する必要はなかつた。)点等は、それ自体被告らの右方針を裏書するものである。

従つて、原告らに対する本件各免職処分は憲法第十四条第二十八条及び国家公務員法第二十七条第九十八条第三項等に定められた公正平等な取扱の原則に反し、労働組合の正当な行為を理由として為された不利益処分であるから、違法なものというべきである。

五、(定員法違反)

(1)  定員法による整理は、同法により定められた新定員に達するまで、希望退職者等を含めて、同法所定の期限迄に整理すれば足りるのであり、新定員を下廻る迄整理することは、同法に基く整理としては違法であり、従つて、強制的に整理する場合においても、予想される希望退職者数を調査の上、新定員を下廻ることのない範囲になされるべきものである。しかるに、当時の電気通信省、及び、郵政省においては、定員法による整理として、後記の通り、同法所定の新定員を遥に下廻る数まで過剰に整理をなし、その結果、業務の運営に多大の支障を来している。右のような過剰整理は、明らかに定員法に反する違法なものである。

(2)  (郵政省における過剰整理)

(イ) 定員法により定められた 和二十四年十月一日おける郵政省の定員は二六〇、六五五人である。しかして、昭和二十四年八月十一日郵政省側の発表した整理予定人員は総数約一八、五五〇人にして、その内希望退職者数約一一、四五〇人、希望退職者以外のもの(強制退職者)数約七、一〇〇人である。

(ロ) しかして、右の希望退職者は同年六月より募り、その殆ど全部については、同年九月末日付を以て退職させている。そして、同年九月十五日現在における同省の総実在員は人事院の調査(甲第二十八号参照)によると二五八、四五八人であり、この時において既に新定員を二、一九七人下廻ることになる。更に、同年九月下旬において、右実在員より、三、六二七名を整理(証人長田裕二の証言参照)したから、右の数字だけからでも、同年十月一日においては、二、一九七人に、三、六二七人を加えた五、八二四人、新定員より不足することになり、更に同年九月十六日以降の強制退職者、死亡者等を加算すれば、七、〇〇〇人近く新定員を下廻ることになり、これは、明らかに定員法の規定に反した違法な整理である。

(3)  (電気通信省における過剰整理)

(イ) 定員法により定められた昭和二十四年十月一日における電気通信省の定員は総数一四三、七三三人(内訳・本省一三八、八三五人電波庁三、八〇二人、航空保安庁一、〇九六人)である。しかして、昭和二十四年八月十一日同省側の発表した整理予定人員は総数約七、九五〇人にして、その内、希望退職者数約三、五五〇人、希望退職以外のもの(強制退職者)数約四、四〇〇人である。

(ロ) 昭和二十四年九月十五日現在の電気通信省の実在人員は人事院の調査(甲第二十八号証参照)によると、本省一四一、九三六人、電波庁二、三四三人、航空保安庁一、〇三六人にして、これを前記定員法による新定員と比較すると、電波庁において一、四五九人、航空保安庁において六〇人の過剰整理がなされていることになる。

本省においては、三、一〇一人の過員が存しているようになつているけれども、これは希望退職者中右日時当時未発令の者三、五五〇人(甲二十七号証参照)を含んでいる数字であるから、実際には既に四四九人の過剰整理となつているわけである。

(ハ) 更に、本件原告らに対する免職処分当時において、同省においては既に整理すべき過員は存しなかつたことは左の通りである。

昭和二十四年八月十七日午後五時現在における整理人員は同省側の調査(甲第三十一号証参照)によると、

強制退職者(二四、八、一二、発令者)    三、九九五人

希望退職者(二四、八、一二、当時未発令者) 三、九六八人

計                     七、九六三人

であつて、右は、前記同省の整理予定人員より一三人も多く整理していることになる。しかして、右の希望退職者数は東北電気通信局の整理予定人員中希望退職者二五〇人を除外した数である。

又、後記(被告らの申立並びに事実上の主張の第三、(8)、(ハ))被告の主張通り昭和二十四年八月十二日の強制退職発令者が、四、三七六人とすれば、同年八月十七日現在における過剰整理数は、東北電気通信局の希望退職者二五〇人を除外しても、なお、三九四人(四、三七六人と前記希望退職者数三九六八人との合計八、三四四人より前記整理予定人数七、九五〇人を控除した数)となるわけである。

又、仮に、後記被告主張の賃金要員化し得なかつた人員四〇〇人を考慮しても、右八月十七日現在において、二四四人の過剰整理がなされていた(東北電気通信局の希望退職者二五〇人と前記過剰整理三九四人との和から四〇〇人を控除した数)ことになる。

(4)  (退職金の支給について)

前記両省においては、定員法による退職者に対する退職金の支給について、昭和二十四年八月十一日頃右両省当局は定員法による退職金は二週間以内には支払う準備ができていると言明していたのにかかわらず、郵政省東京地方保険局においては、予定より十三名も多く退職者があつたため、予算不足に因り定員法により退職した者に対する所定額の退職金を支払うことができず、普通退職による退職金額を支払うと言明せざるを得なかつたような事実、或は訴外長島関次は強制退職後七ケ月間も退職金の支払を受けず、又その供託もなされなかつたような事実がある外、所定の額の退職金を支払えなかつたり或はその支払が長期にわたり遅延したような事例が多数存在する。これは当初に予定した退職金の原資を使い果した結果によるものであつて、過剰整理がなされた事実を裏書するものである。

(5)  以上の通り、前記両省においては定員法の新定員を遥に下廻る程に過剰整理を行つたものであつて、希望退職者数を考慮に入れるならば、昭和二十四年八月十二日当時において急いで大量の強制退職処分を為す必要は全くなかつたものである。加うるに、前記説明により明らかな通り、もはや定員法上何ら退職させる必要がなかつたのにかかわらず、同年九月下旬においても多数の者を強制退職させている。要するに、被告らのなした本件各免職処分は、定員法に反して過剰整理をなし或は同法による整理の必要がないのにかかわらずこれを為したものであり、いづれの点よりするも同法に反した違法な処分と言わなければならない。

第三、(被告らの主張に対する原告らの主張)

(1)  被告らが原告らに対する免職の事由として主張する事実は、ことごとく原告らが為した組合活動であり、被告らはこれを以て違法或は事実に対する非協力な行為となしているが、被告らが指摘する原告らの各行為(但し、その一部は後記の通り事実に反した主張もある。)は何ら違法なものでなく、又当時における原告らの立場としては組合活動として当然に為すべき行為であつて、これらの行為を免職処分の理由としたこと自体本件各免職処分が原告らの主張する通り平等取扱の原則、不利益処分禁止の原則に反するものであることを裏書するものというべきである。

(2)  全逓信労働組合は所謂二、一スト後、国鉄労組、全国財務職員労組、全官庁労組協議会、日教組、自治労連、都職労、大蔵三現庁職員労組等と共に全官公庁労働組合連絡協議会を構成し、官公労働者の統一戦線の一翼として労働組合活動を行つて来たものであるが、昭和二十三年春頃から、右単位労組中、現業労組たる国鉄と大蔵三現庁の両労組は右連絡協議会から離れていつたので、昭和二三年政令第二〇一号公布前後においては、右協議会中、現業労組は全逓労組のみとなつた。従つて、右連絡協議会を構成する労組中、罷業権を有する組合は全逓労組だけであつた。そうして、罷業が労働組合の最大の武器であることから、自然全逓労組が官公庁関係労組の闘争の指導的役割を持たざるを得なかつたのも当然の成行であつた。

(3)  そうして、被告がいう昭和二十三年七月二十二日付連合国軍最高司令官書簡は、直接に国民に対する命令でなく、政府に対する立法の示唆、又は、勧告と解すべきであるのに、時の政府はこれを命令であると称し、全逓労組その他官公労組の基本的権利は右書簡により消滅したとし、更に、昭和二三年政令第二〇一号を制定公布し、強権力を以て労働組合活動を抑圧しようとしたのである。

このような政府の態度に対し、労働組合として反対の態度をとつたことは当然であり、又、給与標準金五、二〇〇円の要求も、当時の公務員労働者としてはむしろ控え目な要求である。又、組合の反対闘争が相当過激なものであつたとしても、それは、当時の社会状態、或は、労働者の経済的窮乏の有様からして、これ又、やむを得なかつたものである。

しかして、前記最高司令官書簡は国民に対する命令でなく又、政令第二〇一号は無効のもの(同政令の無効である理由は後記の通り。)であるから、右書簡或は、政令により労働組合の罷業権等の基本的権利は消滅したものではない。従つて、全逓労組としては、当時、罷業権を有していたものであるから、罷業を行わんとする態勢を示したことについては、何ら違法な点はなく、むしろ当然の行動というべきものである。

右政令第二〇一号が無効である理由は左の通りである。(イ)同政令は昭和二十年勅令第五四二号に基いて制定されたものであるが、同勅令は旧憲法第八条の緊急勅令の形をとつていても、実質上は同条の緊急勅令では制定できない広汎な立法権を行政権に委譲したものであつて、旧憲法上も無効であるばかりでなく、新憲法第四十一条に真正面から反し、同法第九十八条により無効である。このことは昭和二十三年法律第七二号号、及び、同第二四四号が、右勅令が新憲法の下では効力を有しないことを前提として、この勅令に基いて発せられた従前の命令の効力を特に存続せしめる旨を定めた点に鑑みても明らかである。(ロ)同政令の内容は公務員労働者の基本的権利たる団結権、団体交渉権、争議権等をじゆうりんすることを目的としているものであつて、ポツダム宣言、極東委員会の十六原則、憲法第二十八条に違反し、無効である。

(4)  被告らは、昭和二十三年夏から秋にかけて行われたいわゆる職場離脱の責任を全逓労組或は中央執行委員の指令宣言等に帰せしめているが、職場離脱は前記連合国軍最高司令官書簡を利用する政府の強圧的政策が下部組合員を刺戟した結果行われたものである。そして右職場離脱が前記政令第二〇一号に反する行為であるとしても、前記の通り同政令が無効なものである以上これらの行為を法律上違法なものと為すことはできない。仮に、違法であるとしても、これらの行為は何れも各組合員の自発的な意思に基く個人的行為であり、これらを組合本部の方針と結び付けることは不当であり、まして組合幹部の責任に帰せしめることは不合理であるというべきである。

(5)  組合専従者引揚要求もこれを口実に被告側が全逓労組の組合業務の全面的停止を企図したものというべきものである。即ち、四十万人近い組合員を擁する全逓労組の組合事務を僅か一、二ケ月の間に専従者の数を十分の一に減じて運営できるように措置することを要求することは、全く不可能を強いるものであり、かつ、当時の公務員労働者の標準給与金三、七九一円という低額では到底組合費を以て専従者の給与まで賄い切れるものでないことも明らかである。このような無理な専従者引揚要求は現実に行われ得べくもなく、官側においても後になつて黙示の中に専従者を認めざるを得ない結果となり、例えば原告高原の如きは昭和二十四年一月迄組合本部に常駐したまま給与を受けていたものである。しかしながら、全逓労組としては職員にして組合本部、地連本部、地区本部に常駐していた書記等は昭和二十三年八月二十五日を以て引揚げさせ、そのため組合事務は一時混乱し収拾困難な状態となつたので、他の官公労組とともに執行部たる専従者は同年十月以降の専従者問題が解決する迄は引揚げないことを決めざるを得なかつた。そうして準備が終つた後において専従者名簿を提出したのである。

右のような全く実施不可能な要求に対し組合が従順でなかつたことを理由に、組合幹部を免職するというが如きは、組合と官側とが少くとも労働者と使用者との関係において利害が対立するものであるとの前提を忘れた論と言う外ないものである。

(6)  全逓労組が定員法の実施に反対したのは、当時の職場が設備の朽廃と人員不足により労働強化に悩んでおり、人員増加こそ要されていたのに、人員を減らすことは徒に労働強化を招来し事業の円滑な運営が危ぶまれる程なのに、定員法の実施により削減される経費は僅かに二億円程度に過ぎず、又、被解職者の生活は全く保証されていないし、政府は経費削減に名をかりて組合の弱体化を計つていること等の理由によるものであつて、同法実施後の実状は組合の憂慮がそのまま適中していたことを示している。

更に、被告らの主張する右人員整理反対に関する組合の指令なるものも、人員増加の要求、労働強化反対等の方針を打出したもので、組合の立場から政府の立場を攻撃することは何ら違法でない。又、被告らのいう国家公務員法第九十八条第五項の規定そのものも憲法第二十八条に違反した無効な規定というべきである。

(7)  次に原告ら各個人について被告らが免職の事由として挙げている事実に対する原告らの主張は左の通りである。

(イ)  (原告高原関係)

昭和二十三年政令第二〇一号公布前後における全逓労組の組合活動、組合事務専従者引揚要求に対して行つた組合の措置定員法実施反対の組合活動が何ら違法なものでもなく、又、不当なものでないことは前述の通りである。

仮に、右政令第二〇一号に対する中央執行委員会の決定指令等が被告らの主張する如く違法なものであつたとしても、これは執行委員の合意によつて決議されたものであるから、この決定等に参加し賛成した執行委員は全部原告高原同様に責任があるものというべきであるのに、被告らは右決定に参加し賛成した当時の組合副委員長訴外星野作外三十名のものについては本件整理の対象としていないし、又、右決定等はその後昭和二十三年九月の第七回中央委員会及び同年十一月の第七回全国大会においても圧倒的多数をもつて確認されているのに、これらの会議における賛成者は何らの処分も受けていない。

更に、秋田大会の決議については、原告高原は当時組合本部副委員長であつて、組合規約第三十五条第四項により大会における議決権を有していないのであるから、右決議に参加したことはなく、もし、被告らが右決議について責任を追求するならば、同大会において右決議を提案した訴外長谷武磨こそ先づ免職すべきであるのに、同訴外人は本件整理の対象とされていない。又、その後の定員法反対闘争の指令等についても、その決定に参加した組合中央執行委員たる訴外馬場喜重外七名のものも免職させられていない等の事実は、前記政令第二〇一号の反対闘争について述べた事実と共に本件免職処分が平等取扱の原則、不利益取扱禁示の原則に反するとの原告の主張を裏書するものである。

原告高原は電子管の研究その他につき優秀な技術者であり前記人事院の消極的基準に該当するものであることは明らかであり、同原告が入省後、組合活動に専念する機会が多かつたとしても、被告が、同原告の有する技能を被整理者の選定にあたつて評価しなかつたということは不当である。

(ロ)  (原告村山、同相馬関係)

原告村山は昭和二十四年六月二十一日副委員長に選任された後においてはじめて組合本部の仕事に従事したものであり、かつ、保険業務には長年の経験を有し、業務能率も高く、勤続年限も長い。

原告相馬は勤続年限長く、保険業務に精通している。

右原告両名に対しては、原告高原に関して述べたことを援用する。

結局、右原告両名を免職すべき理由は全くない。

(ハ)  (原告宮田関係)

原告宮田は組合役員として昭和二十一年から同二十三年末までの大部分の期間組合事務に専従することを認められていたものであるから、被告が主張するような、勤務不良というようなことはあり得ない。むしろ、同原告は、組合運動従事中においても事務処理能率は良く、第二支払課への転勤も、勤務不良のためでなく、主管課長から激励されて移つたものである。又、執務時間中に資金カンパをしたようなこともなく、委員会の報告等に関し、注意を受けたこともない。反対に、主管係長、課長はじめ、全体が原告宮田の組合活動を理解し、協力してくれたものである。要するに、同原告についても、何ら免職にすべき事由は存しないものである。

(8)  被告郵政大臣は、定員法による定員より三、六二七人多く整理し、内二、五五〇人に対しては昭和二十四年政令第二六四号附則第四項二号による退職金を支給し、右三、六二七人の過剰整理は定員法に関係ないものであり、同法に反するものでないと主張するが、定員法の定員を下廻るまでに過剰整理することが定員法に違反するものであることは請求原因で述べた通りであり、右政令第二六四号附則第四項二号による退職金は、定員法による整理-しかも、定員法の定員に達する迄の被整理者にのみ支給されるべきものであることは、同令或は、定員法、昭和二十四年政令第二六三号の規定上明白であるから、過剰整理者に対して右政令による退職金を支給することは違法であり、従つて、被告の右主張自体からしても、少くとも、右二、五五〇人の整理は定員法による整理でないとの被告の主張は理由がない。

仮に、被告郵政大臣が右政令第二六四号による退職金を支給したものとすれば、被告は事前において、右のように多くの希望退職者の出ることを予期して、同令による措置をとつたものであるから、被告としては、当然、右希望退職者数を勘案して強制退職者数を規正すべきであつたのにかかわらずこれを為さず、組合幹部を免職した事実は、これまた、本件処分が不当労働行為たることを裏書するものである。

(9)  被告らは、原告らにその責任を追求している諸行為が共通する組合員でも、いわゆる民同派に属する者を免職しなかつたのは、被告らの自由裁量であると主張するが、被告らが、同じ行為をした者に対して、右のように差別して取扱つたという事実は、本件免職処分が正当な組合活動を理由とする不利益処分であることを推測せしめる一事情であると、原告らは主張しているのであつて、被告が、自由裁量であると主張すること自体、原告らの主張が正当であることを物語るものである。

(被告らの申立並びに事実上の主張)

第一、申立主文同旨の判決を求める。

第二、請求原因事実に対する認否

請求原因第一項記載の事実は認める。同第二項記載の事実並び主張は争う。同第三項記載の事実中被告らの定めた整理基準は認める。人事院の消極的基準は知らない。原告らが右整理基準に該当しないとの点は争う。第四項(1)記載の事実は争う。原告ら及びその他の組合幹部で整理された者は全部非協力を理由に処分されたのであり、又、整理後再採用された者については、整理後の諸事情或は予算の関係等からできるかぎり再採用の途をとつたものである。同項(2)記載の事実は争う。同第五項(1)記載の主張は争う。同項(2)の(イ)記載の事実は認める。同(ロ)記載の事実中昭和二十四年十月一日現在において、郵政省の新定員より三、六二七名下廻つて整理されていたことは認めるが、その他は争う。同項(3)の(イ)の記載の事実は認める。同(ロ)(ハ)記載の事実は争う。電気通信省関係では原告主張のような過剰整理はなかつた。同項(4)、及び(5)記載の事実、及び、主張は争う。

第三、被告らの主張

(1)  原告らに対する本件免職処分は定員法附則第三項、国家公務員法第七十八条第四項に基いて為したものであり、かつ、原告らは、右定員法に基く人員整理に当り被告らが認定した前記(請求原因第三項(1))整理基準の内通信事業の業務に非協力という基準に該当しているものであること後記の通りであるから、被告らが原告らに対し不平等に取扱つたとか、特に不利益に取扱つたというような事実はなく、従つて原告らに対する各免職処分はいづれも違法でない。

(2)  原告らの属する全逓労組はいわゆる二、一ストの当時以来、国鉄関係の労働組合と共に全官庁労働組合連絡協議会の主体となつて過激な労働組合活動を続け、昭和二十三年七月二十二日連合国軍最高司令官より内閣総理大臣宛の書簡が発表され、右書簡に基く政府の施策或は昭和二十三年七月三十一日政令第二〇一号(同年同月二十二日内閣総理大臣宛連合国軍最高司令官書簡に基く臨時措置に関する政令)に対して強硬な反対闘争を展開し、更に定員法による人員整理に当つても同様に反対闘争を続けたものであり、その当時原告らは同組合幹部として左記のような違法行為或は非協力行為を為したものである。

(3)  (原告高原関係) 原告高原は、その主張する通りの組合役員として重要な地位を占め、従来抱持していた過激的性向を極度に発露し、当時の組合下部機構の役員、又は、組合員に対し、左のような影響力を与え、よつて、法令違反を為す等の非協力行為があつた。

(イ)  前記昭和二十三年七月二十二日付連合国軍最高司令官書簡が発表されるや、全逓労組は同年七月二十四日中央闘争委員会を開いて、右書簡後の新事態に対処する今後の方針を討議した結果、あくまで闘争を継続する旨の声明を発表すると共に、同趣旨の指令(指令第四号)を下部組織に発し、これに引続き同月二十九日、三十日の両日にわたつて中央闘争委員会を開き、現下の状態を打開するためにはストをも含むあらゆる方法で強力な実力行使に出る必要のあることを決定し、同月三十日、右決定と同趣旨の内容の非常宣言を発表した。その後、組合内部において、右指令、或は、宣言に対する反省の動きが現れてきたが、中央闘争委員会は同年八月十二日、右指令第四号の確認をなし、更に、同年同月十九日には地域闘争に移る旨の指令(指令第二十三号)を、翌二十日には一人一要求の地域闘争に移ることを指示した特別情報第一号を、それぞれ下部組織に発した。

右指令、或は、宣言等に影響された組合下部組織においては、全国各地において組合員による職場離脱放棄が行われたのであつて、右指令、或は、宣言等を発した当時原告高原は全逓労組の副委員長の地位にあり、極左的傾向の下にこれが指導に当つていたものであるから、前記政令第二〇一号第二条第一項所定の禁止規定違反という非協力行為があつたことは明らかである。

(ロ)  前記政令第二〇一号公布後、政府は昭和二十三年八月五日次官会議決定、並びに、同月六日の閣議諒解事項として右政令の解釈と取扱について、「組合員の争議行為等を認めない。組合事務専従者も認めない。従つてこれに対する措置として、組合事務専従者を直ちに職場に復帰させる。但し、各省庁の長は一定の期限(非現業庁職員については八月末日限り、現業庁職員については九月末日限りとすること。)及び、条件を定めて組合事務に従事することを承認する権限を有する」等の趣旨の決定をなし、同趣旨を同年八月十二日付で逓信大臣富吉栄二より組合中央執行委員長土橋一吉に通達した。右通達による専従者の復帰期限(但し、支部においては各一名、地区本部、地連においては三役と書記三名、本部における組合規約上の役員を除く、)は同年八月二十五日とされていたが、その後、九月一日迄と変更された。

しかるに、右期限をすぎても各専従者らは容易に職場に復帰せず、その後においても逓信大臣は各逓信局長を通じて復帰せしめるように措置させたが、なお復帰しなかつた。しかのみならず、既に組合に対し提出方を通達していた組合事務専従者名簿すら提出しないので、逓信大臣降旗徳弥は、同年十一月二十六日付書面でもつて右組合中央執行委員長宛に専従者名簿を同年同月三十日迄に提出するように申入れたがが、右期限迄には提出されず、組合本部においては昭和二十四年五月三十一日、又、東京地区本部においては同年三月二十二日に至り、はじめて、専従者名簿が提出されるという状態であつた。右のように組合事務専従者を職場に復帰せしめなかつたこと、又、専従者名簿を提出しなかつたことについて原告高原は組合本部役員として非協力の事実があつたものである。

(ハ)  昭和二十四年五月三十一日定員法が制定公布され、同法による行政整理が必至の状態下において、全逓労組は同年六月秋田市において第七回臨時全国大会を開き、行政整理に反対する一手段として「ストライキを含むあらゆる闘争手段をもつて吉田内閣打倒のため断固行動を開始する。」という趣旨の闘争宣言をなし、その後組合中央闘争委員長名或は組合中央本部青婦建設班名をもつて右宣言の趣旨を実行させる目的の下に指令或は檄文等を下部機構に発し、もつて国家公務員法第九十八条第五項に違反するような行動に出で、その結果被告らによる行政整理に支障を来さしめた。当時原告高原は組合の副委員長であつたのであるから、組合の右違法かつ非協力行為に対し責任があること明らかである。

(4)  (原告村山関係)

原告村山は前記秋田市の大会の大会の最終日たる昭和二十四年六月十日に組合副委員長に補選された後前記原告高原同様の行動(前項(ハ)後段記載の行動)をなしたものであつて、原告高原と同様に違法かつ非協力の責任があるというべきである。

(5)  (原告宮田関係)

原告宮田は昭和二十一年六月五日善通寺地方簡易保険局(当時の名称は善通寺簡易保険支局)に入局し、同二十四年八月十二日に本件免職処分を受けたものであるが、その勤務年数は短期間であつたのみでなく、その間における勤務成績は不良であつた。

即ち、原告宮田は組合関係において昭和二十三年四月支部青年部副部長、同年八月支部執行委員教育宣伝部長、同年十二月香川地区本部青年部長、同二十四年四月支部執行委員調査部長、同年八月本部執行委員交渉部員等の組合役員となり、

(イ)  右昭和二十三年四月に支部青年部副部長に選ばれるや、急速に組合運動に関心を示すようになり、その結果執務に空白を生じ勝ちとなつたので、再三に亘り主管係長より注意を受けたのに、依然として同様の態度を続けたため、主管課長から「組合運動の重要性もさることながら業務に対しても一層努力するよう」との趣旨の訓示を与えて第二支払係に勤務替えをした。

(ロ)  右(イ)の措置を執つた後においても、執務時間中に共産党の資金カンパのために各種物品を係員その他の者に購入方を勧奨する等の所為が繰返されたので、その都度当該係長から厳重な注意をした。

(ハ)  昭和二十三年十一月組合執行委員に選出されてからは、委員会の報告を口実にして、委員会の報告は僅か二、三分に留め、共産党のアヂ的指示に自己の思想をも打込んで長時間共産党の宣伝を行い、そのため執務時間に喰込むことが度重つたので、担当係長が注意を与え、又、その後、右のような所為を主管課長が直接目撃したので、重ねて注意を与えたのであるが、原告宮田は、表面反省の色を示し、充分考えて行動すると約しながら、主管課長の目の届かないところでは依然として前記同様の所為に出た。

(ニ)  昭和二十四年七月中旬郵政関係の行政整理に関する具体案が新聞その他に散見するようになつてからは、「今次整理案は、実力を行使しても排除しなければならない。斯る事態に到らしめたものは現内閣の政治性の貧困によるものであるから、内閣の打倒を期して、われわれはあくまで戦わねばならない。」との趣旨の言辞をろうして各職場を廻つた。

(6)  (原告相馬関係)

原告相馬は、昭和二十一年六月仙台地方簡易保険局(当時の名称は仙台簡易保険支局)の全逓労組支部書記長の地位を占めて以来、活発な組合活動をしていたが、同二十三年六月組合本部の中央執行委員となるや、従来の過激な性向を極度に発揮し、原告高原と共に、同原告関係の項(イ)乃至(ハ)に記載したと同様な違法かつ、非協力行為をなしたものである。

(7)  原告らは、被告らが、右に記載したような原告らの違法非協力行為によつて原告らを免職処分に付したことを目してこれは組合活動に対する報復的、懲罰的な措置である旨主張するけれども、組合活動の故を以てしても法令を無視した行為は為し得ないのであるから、被告らが本件各免職処分を為すに当り、組合活動の在り方を考慮したのは当然であり、又、昭和二十七年政令第二〇一号国家公務員法第九十八条第五項が違憲であるとの原告らの主張も全く理由がないものである。

又、原告らは、被告が指摘した前記原告らの違法、非協力行為につき、原告らと共に行動した組合幹部中には、免職処分を受けてない者があるから、原告らに対する本件免職処分は不当労働行為であるというけれども、組合幹部の中、誰を免職し、或は、誰を免職しないかは被告の所謂自由裁量に委せられるべきものであり、被告らが原告ら主張のように民同派に属する組合幹部を整理から除外したとしても、それのみで直ちに本件処分が平等取扱の原則違反、正当な組合活動を理由とする不利益処分であつたものと言うことはできない。

(8)  (定員法関係の主張)

(イ)  郵政省において人員整理の結果昭和二十四年十月一日現在において、実在人員数が定員法処定の定員数より三、七二七名下廻つていたことは争はないが、電気通産省においては、右時期において実在人員数が定員法処定の定員数より下廻つていた事実はない。原告らが、過剰整理が為されたと主張する根拠は人事院によつて作成された昭和二十四年九月十五日現在における「第一回国家公務員給与等実態調査報告第一冊」(甲第二十八号証)或は、郵政労働運動史(乙第九号証、甲第三十一号証等)に掲載されている数字であるが、右数次は正確なものでなく、従つて、これに基く原告らの主張は理由がなく、定員法による人員整理の実情は後記の通りであり、何ら、違法な点は存しない。

(ロ)  (郵政省関係の人員整理)

定員法による郵政省の定員数、同法による整理にあたり、昭和二十四年八月十一日被告側が発表した整理予定数は原告ら主張の通りであるが、当時、被告側が調査判明した数は左の通りである。

(a) 過剰人員数    一八、九九三人

(b) 自然減耗見込数     四三七人

差引計      一八、五五六人

(c) 希望退職者数   一一、四五〇人

(d) 強制退職予定数   七、一〇〇人

右により明らかな通り、郵政省としては定員法によつて整理しなければならないのは一八、五五六人であるところ、諸種の事情からして早期に退職を希望する者もあつたので、これらの者の希望を入れて、昭和二十四年八月十二日に第一回目の整理として

(e) 早期希望退職者   一、九九一人

(f) 強制退職者     五、四三五人

合計        七、四二六人

を整理し、その後、右整理にあたり整理妨害行為をしたものが相当数あつたので、これらの者のうち、放任し難い者約

(g)              六〇人

を同年九月中旬頃整理した。又、同年八月下旬頃からは、当初の予想に反して退職を希望する者が増加して来たので、その結果、今後の整理は前回の整理のように、全国一斉に実施する必要がないと判断したので、これが整理を各郵政局に一任して整理させた。そうして、同年九月二十日迄の整理数を累計したところ、

(h) 九月二十日迄の総整理数一七、八〇〇人

という結果となつた。従つて、同年九月二十一日以降は七五六人を整理すれば足りたのであるが、希望退職者が相当数出て来たこと、並びに、今迄の整理によつて各部局の配置人員数に凹凸が生じた事情等もあつたので、これらの事情を勘案して、定員法の枠外に於て希望退職する者の内二、五五〇人に対しては昭和二十四年政令第二六四号(昭和二十四年度総合均衡予算の実施に伴う退職手当の臨時措置に関する政令)附則第四項の二により有利な退職手当を支給することにしたが、そのような有利な退職手当の支給を受けなくても良いから退職したいと申出るものもあり、結局同年九月三十日附で左の通り希望退職者を発令した。

(i) 定員法に基くもの    七五六人

(j) 政令二六四号による退職金を支給したもの二、五五〇人

(k) 右以外の希望退職者 一、〇七七人

その結果、右(j)と(k)の和である三、六二七人が定員法による定員数を下廻る結果となつたのであるが、これらの者は定員法による整理とは何ら関係のないものである。

(ハ)  (電気通信省関係の人員整理)

電気通信省においても、定員法による新定員数、同法による整理にあたり昭和二十四年八月十一日被告側が発表した整理予定数は原告ら主張の通りであるが、当時、被告側が調査判明した数は左の通りである。

(a) 過剰人員数   一〇、一五〇人

(b) 希望退職者数   三、五五〇人

(c) 強制退職者予定数 四、四〇〇人

右の数字から明らかなように、過剰人員数から希望退職者数、強制退職予定者数の合計を差引いても、なお、二、二〇〇人の過剰人員を有することになるので、これに対し、

(d) 福利厚生要員の定員外措置(賃金要員化) 二、〇〇〇人

(e) 長期欠勤者の定員外措置           二〇〇人

の措置の予定をし、この想定に基き、同年八月十二日に全国一斉に強制退職予定者四、四〇〇人中四、三七六人を整理し、これと同時に長期欠勤者二〇〇人を休職処分に付し、定員外としても措置をなした。

ところが、その後の調査により、当初予定していた福利厚生要員の賃金化予定数二、〇〇〇人中約四〇〇人は賃金要員化し得ないことが判明して来たが、他方、当初予定していた希望退職数三、五五〇人も、これを上廻る数の退職希望者が出て来たので、これらの事情を勘案して、同年九月十八日以降同月末迄に第二回目の措置として一一二人を強制退職処分に付した。一方、希望退職者については、その希望によつて順次退職させていたが、大部分の希望退職者は同年九月三十日付で発令した。そして、同年十月一日付で福利厚生要員一、五九四名を賃金化し、定員外の措置をとつたのである。

(ニ)  右に述べた通り、電気通信省関係においては原告らの主張するような過剰整理はなく、又郵政省における定員法を下廻る整理は、定員法と関係なく行われたものである。定員法による人員整理の期間中に同法の定員を下廻るまで希望退職者を出したとしても、同法に違反したものとはいい得ないし、又、その結果、業務の運営に支障を来すようなことがあつたとしても、それは過剰に整理したことの当、不当の問題であつて、本件各免職処分が違法であるということはできない。まして、原告らはいずれも前述の通り非協力の程度が極めて強いものであるから、原告らに対する本件各免職処分が違法であるとの原告らの主張は理由がないこと明らかである。

なお、退職金の支払遅延は、原告の主張するように原資不足に因るものではなく、他の理由によるものであり、ことに、原告が主張する訴外長島関次に対する退職金の支払或は供託が遅れたのは、同訴外人が整理当時全逓労組関東地連執行委員をしていたものであるから、組合の基本戦術であつた辞令返上闘争戦術に従つて、辞令、及び退職金受領拒否の挙に出たためであり、いづれにしても、整理予定人員数よりも多く整理したため、退職金の支払いが遅れたというようなことはない。

(証拠関係)<省略>

理由

一、原告らがいづれもその主張するように郵政省或は電気通信省の職員として勤務していたこと及びその主張の日にその主張の被告(但し被告日本電信電話公社総裁は本件処分当時電気通信大臣。以下同じ)により定員法による人員整理としてそれぞれ免職処分に付せられたことは当事者間に争ない事実である。

本件各免職処分は右の通り定員法附則第三項国家公務員法第七十八条第四号によるものであるが、このような過員の整理に当つて何人を免職するかは任命権者が自らの裁量によつて決定し得るものであるけれども、その決定が全面的に任命権者の自由裁量に委ねられているものでなく、その決定を為す場合においては国家公務員法第二十七条に定める平等取扱の原則、同法第七十四条に定める分限の根本基準或は同法九十八条第三項の規定に反して行つてはならないし、その決定は公平な判断に基いてなされなければならないことは勿論、決定がいちじるしく客観的妥当性を欠き、明らかに条理に反する場合は違法なものというべきであることは、右国家公務員法の諸規定或は本件処分当時施行の旧人事院規則第一一―〇第四項、現行の同規則第一一―四第二条、第七条第四項等の諸規定に照らし明らかなところである。

ところで、被告らが本件整理を為すに当つて原告主張のような内容の整理基準を設定したことは当事者間に争いない事実であり、成立に争いない乙第一号証、同第九号証の二、証人長田裕二、同藤田敬治の各証言を綜合すると、被告らは本件整理をなすに当り、実質的な犠牲者を少くするため希望退職者をなるべく多く募り、なおそれでも新定員に達しない場合において強制的に退職(免職)させるとの方針をとり、被免職者の選択の公平を帰するため右認定の整理基準を設け、これに該当する者を免職させたものであることを認めることができる。

そして、前掲各証拠によると、右整理基準なるものは被告らの内部的な一応の取扱標準に過ぎないものと解せられるが、右認定の整理方針及び同基準は、前記の過員整理に当つて守らなければならない一般的諸原則の趣旨に合致したものであり、これを本件整理に当つて更に具体的に表現したものに外ならぬと解せられるから、被告らはこの整理方針及び基準に従つて整理を為すべきであつて、もしこれを無視して本件各免職処分が為されたようなことがある場合においては、それは違法な処分として取消しを免れないものである。

二、(本件処分の適法性について)

そこで、原告らに対する本件各免職処分が被告らの主張する如く前認定の整理基準に従つて適法になされたものであるか否かについて判断する。

(1)  先づ原告高原、同相馬、同村山について考える。

成立に争いない甲第二号証、同第三号証の一、二、同第二十三号証、同第二十六号証、同第三十号証の二、乙第六号証、同第八号証の一ないし五、同第九号証の一、二、証人長田裕二、同板倉豊文美、同藤田敬治、同浜武司、同伊集院邦武、同増田峯夫、同大須賀寛、原告村山本人各尋問の結果及び弁論の全趣旨(但し、証人伊集院、同増田、同大須賀、原告村山本人の各供述中後記認定事実に反する点を除く。)を綜合すると、被告らが原告高原、同相馬、同村山について右整理基準中の業務に対する非協力事例として掲げている事実(事実摘示中「被告らの申立並びに事実上の主張」の第三の(2)(3)(4)(6)記載の各事実)を認定することができる。右認定に反する証人伊集院、同増田、同大須賀、原告村山本人の各供述部分は措信しないし、その他右認定を左右し得る証拠はない。

(2)  ところで原告らは種々の観点から右認定にかかるような事実も、被告らがいう如く違法或は非協力な行為ということができないと主張するので、以下順次原告らの右主張について判断する。

(イ)  先づ、原告らは昭和二三年政令第二〇一号は憲法に違反し無効なものであるから、同政令に反対するのは当然であり、同政令の規定に反した行為も違法ということはできないと主張する。しかしながら、右昭和二三年政令第二〇一号は昭和二〇年勅令第五四二号に基いて制定されたものであるが、右勅令第五四二号はわが国の無条件降服に伴う連合国の占領管理に基き、連合国軍最高司令官の為す要求に係る事項を実施する必要上制定されたものであるから、憲法にかかわりなく憲法外においてその法的拘束力を有するものも解すべきであり、右政令第二〇一号が昭和二三年七月二二日附連合国軍最高司令官の内閣総理宛書簡(同書簡の内容は国家公務員制度を同政令に盛られたような改正の方向を指示要求したものと認められる。)により制定されたものであるから、憲法第四十一条第九十八条等に反し無効であるということはできず、又、右政令の内容が憲法第二十八条に違反するものともいえない(その理由は後記(ハ)と同様)から、結局右政令第二〇一号の憲法に反し無効であることを前提とする原告らの右主張は採用し得ない。(昭和二四年れ第六八四号同二八年四月八日最高裁判所大法廷判決参照)

(ロ)  次に原告らは、被告らの組合事務専従者引揚要求は全逓労組に対し不可能を強いるものであり、このような要求に従わなかつたことを非協力行為となすことは違法である旨主張する。被告らが前認定の如く、前記政令第二〇一号及び連合国軍最高司令官から内閣総理大臣宛の書簡の趣旨からして、いわゆる組合事務専従者は従来の形においては認められないとして、この見解に基いて組合に対し右専従者の職場復帰及び専従者名簿の提出を要求したことは、右政令施行後の措置としては当然のものといい得る。しかしながら、原告村山本人の供述によると、被告らの要求した復帰期限が短かかつたため、組合がその期限までに専従者を引揚げるときには、組合事務に多大の支障を生じ、そのために組合の存立そのものも危くする状態であつたこと、組合側としても右被告らの要求により、その期限内に組合事務を犠牲にして相当数の専従者を職場に復帰させたことを認められるのであつて、被告らが、一方においては組合の存在を認めながら、他方においてはその存続を危くするような措置を要求したことは適当とはいいがたく、組合がこれに従わなかつたことを以て非協力行為ということはできないと考える。しかし、被告らがこの事実を非協力行為として掲げ、これに該当するものとして免職したとしても、右事実は整理基準該当事実の一部にすぎず、これが不当であるからといつて直ちに本件各免職処分を違法なものとすることはできず、前認定のような諸事実の認められる以上、原告らを整理基準に当るものと判定することを不当とはいえない。

(ハ)  原告らは、国家公務員法第九十八条第五項は憲法第二十八条に違反する無効な規定であるから、これに違反した行為を以て違法非協力行為となすを得ないと主張する。しかしながら国家公務員法第九十八条第五項は憲法に反するものと解することはできない。

即ち、憲法第二十八条に規定されるいわゆる労働三権なるものも、その権利自体が目的でなく、結局のところは労働のみを生存確保の途とする勤労者にとつて、その労働による生存を確保するための手段としての権利なのであるから、勤労者の生存の確保そのものが、国民全体の生存の確保と無関係にあり得べきものでない以上、国民全体の利益との関係においては、これら権利の行使を制限し得るものと解すべきである。しかして、国家公務員は国民全体の奉仕者たる性格を有する勤労者であり、その争議行為は直接国民全体の利益に影響を及すこと多大であることは明らかであるから、このような国家公務員の争議等の行為を禁止することは必ずしも憲法第二十八条に反するものではない。

従つて被告の右主張も理由がない。

(ニ)  又、原告らが、右認定の原告らの行為と同様な行為があつた組合役員中には免職処分を受けていないものもあるのに、原告らを免職させたのは違法であると主張する。しかしながら、本件各免職処分が定員法による過員の整理なのであるから、前記整理基準に該当する者のうち何人を免職するかは、任命権者たる被告らの裁量により決定し得るものというべきであり、整理基準に該当する者は全部同様に処分しなければならないものではない。ただ、その場合においても、特に或る者を差別待遇する目的を以て免職した場合は問題となり得るが、被告らが右原告らを特に他の組合幹部らと差別待遇する目的で本件処分を為したことについてはこれを認めるに足る証拠がないから、原告らの右主張も理由がない。

(3)  次に、原告宮田について考えるに、証人松村豊太郎の証言によると、原告宮田は昭和二十一年六月五日善通寺地方簡易保険局に入局し、同年十月頃全逓労組右保険局支部役員となり、その後引続いて活溌な組合活動に従事し、そのため担当職場における執務が疎かになり勝であつたこと、職場で資金カンパのため物品を販売したこと、執務時間中に組合委員会の報告等をしたこと、右のような行為について所属の上司より再三注意を受けながら容易にこれを改めなかつたこと、定員法による整理にあたつて整理には実力を以て反対しなければならないといつて各職場を廻つたこと等の行為があつたことを認定することができる。右認定に反する原告宮田本人の供述は措信しない。

(4)  以上認定にかかる諸事実(但し、組合事務専従者引揚に関係した点は除く。)は前記整理基準中非協力の点に該当するものということができ、これらの行為がある原告らが被告らにより右整理基準に該当するものと判定されたことはまことにやむを得ないところである。

三、(平等取扱の原則、不利益処分禁止の原則違反の主張について)

原告らは本件各免職処分は原告らがいづれも全逓労組の幹部であるが故に、差別待遇として或は労働組合における正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱を受けたものであると主張する。原告らがいづれもその主張するように全逓労組の役員であつたことは当事者間に争いなく、又、原告らが組合幹部として終始活溌な組合活動に従事していたものであることは証人長田、板倉、松村、藤田の各証言及び弁論の全趣旨により認められ、前認定の如く被告らが掲示する原告らに対する整理基準該当事由なるものも組合活動としての行為ではあるけれども、原告らの右各行為は正当な組合活動の範囲を逸脱したものというべきであるから、これを処分の事由とすることは何ら差支えなく、その他口頭弁論に提出された全証拠によるも、本件各処分が原告らの主張する如く、原告らの正当な組合活動を理由に為されたものであることか、或は、組合役員であるが故に不公平不平等な取扱として為されたものであるとかの事実を認めることはできないから、原告らの右主張は採用し得ない。

四、(定員法違反に関する主張について)

原告らは本件整理完了後において郵政・電気通信両省の実在人員は定員法所定の新定員より遥に下廻つていたものであるから、本件整理は定員法に反する違法があり、かつ、被告らにおいて当初から希望退職者数を調査考慮して整理に当つたならば、原告らに対し強制退職処分を為さなくてもよかつたのであるから、本件処分は違法であると主張する。

しかしながら、成立に争いない乙第十号証、証人長田裕二の証言によると郵政省においては、定員法による整理を実施するに当り、昭和二十四年八月上旬頃の調査によると、当時の現在員は定員法に定められた新定員より自然減耗の数を除いて一八、五五六名過剰であり、その内希望退職予定者数は約一一、〇〇〇名であつたので、約七、〇九〇名を強制退職させなければならない状態にあつたこと、そして本件処分の行われた同年同月十二日当時においては、右希望退職予定者数以上に希望退職者が出ることは予想し得なかつたこと、右同日前記強制退職予定者数中約五、三〇〇名を免職処分に付し希望退職予定者数中約二、〇〇〇名を退職させたことを認めることができ、又、証人藤田敬治の証言によると、電気通信省においては、定員法により整理を為すべき数は同省全体で約一〇、一五〇名であり、希望退職予定者数約三、六〇〇名、その他の理由により定員外とし得る者を考慮してもなお約四、四〇〇名を強制退職させなければならなかつたので、昭和二十四年八月十二日に右強制退職予定者の大部分について免職処分に付し、その後同年九月十八日に定員法による整理として約一〇〇名を強制退職させたものであることが認められ、他に右認定を左右し得るに足る証拠はない。

そうだとすると、郵政・電気通信両省ともに、本件各処分のなされた昭和二十四年八月十二日当時においては、希望退職者数を考慮に入れても、なおそれぞれ多数の者を定員法の要請により強制退職させなければならなかつたのであるから、本件各免職処分が為された当時においては過員の範囲内における整理であり、又、原告らを免職しなくても新定員に達し得る見込はなかつたのであるから、仮に定員法附則第三項の整理期限後の実在人員が新定員を下廻るようなことがあつたとしても、原告らに対する本件各免職処分が遡つて違法となるわけではないから、原告らの右主張は理由がないものというべきである。

五、以上認定の通り、原告らはいづれも被告らが定員法の要請による本件整理に当り設けたところの整理基準に該当する行為があつたものであるから、被告らが原告らに対してなした本件各免職処分はいづれも正当なものであり、原告らの本件処分の違法についての主張はいずれも失当というべきである。

よつて、本件各免職処分の取消を求める原告らの請求は、いづれもその理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条第九十三条第一項本文に則り、主文の通り判決する。

(裁判官 石田哲一 地京武人 石井玄)

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